昼休みが終わり、静かだった事務所にキーボードを叩く音が戻ってくる。
隣の席では、いつものように同じExcelファイルを開き、同じ手順でデータを整理している先輩がいる。
数十分かかるその作業を見ながら、「この仕事ならAIで数分で終わるかもしれない」と思うことが増えた。
実際、同じ作業を振られても自分なら1時間もあればできてしまう。
もちろん、口には出さない。
その人にも、その人なりのやり方がある。
新しいツールを覚えるのは面倒だし、今のやり方でも仕事は回る。
だから無理に変える必要はない。
そう考える気持ちもよく分かる。
でも、その姿を見ていると、私の胸の奥には小さな不安が芽生える。
もし、このまま時代が進んでいったら。
もし数年後、AIを使うことが「特別なスキル」ではなく、「パソコンが使える」と同じくらい当たり前になったら。
そのとき、私たちは何を武器に働いているのだろう。
日本は、いい意味でも悪い意味でも優しい国だ。
海外のように、成果だけで簡単に職を失うことは少ない。
だからこそ、「変わらなくても何とかなる」という空気が生まれやすい。
でも、その優しさが永遠に続く保証はない。
人口は減り、人手不足は深刻になり、外国人材はさらに増えていく。
十年後、二十年後も同じ景色が広がっているとは、私には思えない。
そんなことを考えるたび、私は少しだけ救われた気持ちになる。
副業を続けてきて、本当に良かった、と。
ブログを書き始めた頃は、お金が欲しかった。
会社の給料だけでは不安で、家計を少しでも楽にしたかった。
だから、記事を書いた。
SEOを学んだ。
SNSを覚えた。
デザインを勉強した。
ChatGPTの登場で、最初は疑心暗鬼だったけど、一念発起して本を一冊読み、実際に触ってみた。
商業出版の話が来れば、出版の世界を学んだ。
振り返ってみると、私は「勉強しよう」と思って勉強していたわけではない。
ただ、目の前の課題を乗り越えたかっただけだ。
その一歩が、いつの間にか私を新しい場所へ連れて行ってくれていた。
世間では「リスキリング」という言葉をよく耳にする。
学び直し、のことだ。
時代に合わせて、新しい知識やスキルを身につけること。
実際はそういっているだけで、動いている人はほとんどいない。
少なくとも、私の働いている職場周りでは「今この椅子をいかに(バレずに)守るか」だけのスキルだけは、無駄に育っている。
リスキリングといっても、誰も教えてくれない。
だから調べる。
リスキリングが大切だろうけど、分からないから酒飲んで寝る。
だから失敗してもやり直してものにしていく。
自分は、昨日より少しだけ前に進んできた。
その積み重ねが、変化することへの抵抗を、少しずつ小さくしてくれた。
思えば、私は副業で収入だけを得たわけではなかった。
「変わることは怖くない」という感覚を手に入れたのだ。
それは、これからの時代を生きていくうえで、お金より価値のある財産かもしれない。
AIは、これからも進化し続けるだろう。
新しいサービスも、働き方も、次々と現れる。
そのたびに戸惑うことはある。
でも、「とりあえず触ってみよう」と思える自分がいる。
その小さな一歩を踏み出せるようになったのは、副業があったからだ。
でも、本当に身につけたのは「変わり続ける力」だったのかもしれない。
そして、それこそが、これからの時代を生き抜くための一番大きな武器なのかもしれない。

